
旅先納税
脱・返礼品競争。白浜町が旅先納税で狙う、観光地経営と関係人口創出の相乗効果
和歌山県白浜町

関西屈指のリゾート地・和歌山県白浜町。美しい白砂のビーチや温泉、大型テーマパークなどを擁しており、夏季を中心に年間300万人以上の観光客が訪れます。
町の財政基盤を強化させるには、繰り返し白浜町を訪れる観光客の創出が不可欠。白浜町は旅先納税の仕組みを取り入れ、観光客の満足度向上と事業者の収益向上を図りました。また旅先納税で使用したプラットフォームを活用し、住民向けの地域商品券をデジタル化。物価高騰対策を効率的に行うことに成功しました。
白浜町のe街プラットフォーム導入の経緯や成果について、和歌山県白浜町 総務課企画政策係 係長(取材当時)鳴尾 豪(なるお たけし)さんにお話をうかがいました。
目次導入対象の事業概要
南紀白浜e街ギフト「Yanico(ヤニコ)」
2022年11月開始。白浜町内250店舗(2026年4月11日時点)の加盟店(飲食店、宿泊施設、レジャー施設等)で利用可能な電子商品券。白浜町にスマートフォンから旅先納税をすると即座にYanicoを受け取り、その場で利用することができる。白浜町生活支援商品券「Yanico DX(ヤニコデラックス)」
2026年3月より、重点支援地方交付金を活用した物価高騰対策として全町民を対象に配布したデジタル商品券。Yanicoはふるさと納税の返礼品として認められる飲食店や宿泊・レジャー施設などの店舗で使えるが「Yanico DX」はそれに加えて、スーパーやドラッグストアなどが加盟店に入っており、町民の生活支援に資する仕様になっている。
導入前の課題 | ・既存のふるさと納税の仕組みでは、町の一大産業である観光業に携わる事業者への恩恵が薄かった |
|---|---|
成果 | ・観光客による追加消費が加盟店で発生し、単価向上に寄与した |
町の財政を支える観光関連事業者を支援したかった
――まずは白浜町の地域経済における課題について教えてください。

鳴尾さん:白浜町は関西を代表するリゾート地です。白良浜、白浜温泉、アドベンチャーワールドといった観光資源に加え、羽田空港から飛行機で片道約60分というアクセスの良さから、近年はワーケーションの聖地としても広く知られるようになりました。観光業はまちの基幹産業であり、観光事業者の振興は、町の財政向上と地域の活性化に直結しています。
そのため観光業の事業者に対しては積極的な支援をしたかったのですが、これまでのふるさと納税の仕組みでは、あまり効率的に事業者を支援することができませんでした。白浜町のふるさと納税の返礼品は、梅干しなど和歌山の特産品が最も多く、次いで旅行券が選ばれています。
宿泊施設の一部は旅行券の利用によって収益を上げることができましたが、飲食店やレジャー施設といった事業者にはふるさと納税の恩恵がなかなか届いていませんでした。そのため町の財政を支える観光関連の事業者にもっとふるさと納税のベネフィットを届けたいと考えたのです。
ギフティの担当者に感じた信頼
――導入に至るまでの経緯を教えてください。
鳴尾さん:きっかけは、ギフティさんから旅先納税の提案でお電話をもらったことです。お話を伺うと非常に魅力的な内容だったのですが、当時の町側にはそれを受け入れるだけの運営体制やリソースが整っておらず、すぐの導入は難しいという状況。ちょうど別の課で『プレミアム商品券事業』の公募を出すタイミングだったので、「こちらに参加してみませんか」とお声がけをしました。
ところが、諸事情によりギフティさんが応札できなくなってしまい…。すると、担当者の方がすぐに白浜町までお越しくださって、「せっかく機会をつないでいただいたのに、参加することすらできず本当に申し訳ありません」と、直接お詫びを伝えにきてくれました。その誠実な姿勢を目の当たりにして、「この会社なら、この担当者さんなら信頼できる」と感じたのを覚えています。
お話を聞いた当初から、旅先納税が町のインフラになりえるという価値は感じていました。なので、町内の民間団体を巻き込んで運営体制を整え、一気に導入を進めていったのです。
行政主導の安心感で、老舗も加盟店に
――Yanico導入当初は、どのような体制で進められたのですか。

加盟店での消込方法には、操作が簡単な電子スタンプ(giftee STAMP)を採用
鳴尾さん:白浜町の総務課企画政策係には自分を含めて5名の職員がいます。しかし部署内で請け負っている職務は非常に幅広く、業務はチームで分担して進めるというよりも、各担当者がそれぞれ独立して進めていました。旅先納税とYanicoの推進はほとんど私が一人で担うことになったのです。
最も労力がかかったのは加盟店の開拓です。白浜は古くからの観光地ですから、新しいことに積極的な事業者もいれば「現金以外は受け付けない」といった昔ながらのお店も決して少なくありません。
最初は手探り状態で加盟店を増やしていましたが、それでも1年で約50店が加盟してくれます。一定数の加盟店を超えると、事業者どうしのネットワークの中で自然と認知が広まっていくようになりました。なかには来店したお客さんからの問い合わせをきっかけに、先方から「加盟したい」と声を掛けられるケースも出てきました。
――「現金以外は受け付けない」という事業者に対してはどのような説得を行ったのでしょうか。
鳴尾さん:「手数料は一切かからない」ことを強調して伝えました。仕組みについて正しく伝わると電子決済を敬遠してきた老舗の飲食店などにも加盟いただけるケースが増えました。電子決済の導入に二の足を踏んでいた事業者も、行政が主導しているプラットフォームだと分かると信頼できると感じたのかもしれません。
リピーターを増やし、町の関係人口増につなげたい
――Yanico導入によってどのような成果を実感していましたか?
鳴尾さん:加盟店の増加とともに旅先納税をされる方や金額は増えていき、旅先納税による寄附額はここ3年で約5倍に拡大しました。
白浜町のふるさと納税は大手ポータルサイト4つで寄附の多くが占められているのですが旅先納税はそれらに次ぐ5番目の寄附の柱になりました。絶対額としてはまだ満足できる水準ではありませんが、新たな寄附手段として町の財源に確実に貢献しています。
しかし重視しているのは、寄附の総額よりも件数です。白浜町は、何度も繰り返し町に訪れてくれる人を増やすことを目標としています。週末の1泊2日あるいは2泊3日で来られて、2日に渡って寄附されているケースもあります。リピーターが増えることで強い紐帯を持つ関係人口が増え、愛着が育まれ、持続的な経済効果が生まれることになります。
――利用者や事業者の反応は見えていますか?
鳴尾さん:取得できるデータから、毎年同じ時期に来訪して旅先納税を利用してくださる方がいたり、何度もYanicoを使ってくださる方の存在を把握できています。手応えを感じますね。
また、加盟店からは「商品券があるなら、もう一品頼もうか」「せっかくだから一つ上のグレードにしようか」という形で追加注文が発生しているという報告を受けています。Yanicoが客単価の向上に直接貢献しているのですね。来訪者の満足度を高めながら消費を伸ばすことができていると実感しています。
統一感のあるデザインでブランディングを図る
――Yanicoの認知を広げるために取り組んでいることはありますか?

ブルーに白抜き文字の目を引くデザインが認知拡大やブランディングに寄与
鳴尾さん:ビジュアルデザインに一貫性を持たせ、統一感のある見た目で町内に露出を積み重ねていきました。道路看板、のぼり、町職員の名札ストラップ、卓上スタンドといったあらゆる接点で同じビジュアルを使い続けることで「あれは何だろう」という関心を少しずつ引き出したのです。ふるさと納税の制度を知らない人でも構わない。まず目に留まることが先だと考えました。
加盟店の方々が自発的にプロモーションに活用してくださるようになったことも、大きな推進力になりました。店内にポスターを貼ったり、SNSやキャンペーンで「『Yanico』使えます」と告知したりする動きが自然に生まれたのです。
またSNSのフォローに応じてYanicoを配布するキャンペーンなど、インセンティブと認知拡大を兼ねた施策も複数実施しました。電子商品券を受け取ったその瞬間から、加盟店での利用体験が始まる点がこのプラットフォームの強みです。観光客が空港でYanicoの存在を知って「使えるお店を探そう」と行動することで、まち全体を回遊する流れが生まれています。
紙を配って使って終わり、では次につながらない
――住民向けの「Yanico DX」への展開は、どのような経緯で実現したのでしょうか。

電子スタンプのほか、利用者が店頭の二次元コードを読み取る方式も採用(撮影協力:HIROHATA/HAIRさん)
鳴尾さん:国の物価高騰対策として全町民に商品券を配布する機会がありました。従来、この種の給付は紙の商品券を印刷して配布するという手法が一般的でしたが、人も予算も投じて実施する事業が、配って、使って、終わりでは、その先に何も残りません。国や地域の予算を使うのであれば、次につながる取り組みとして設計するべきではないかと考えました。
行政の幹部が集まる会議でその考えを説明したところ、デジタルプラットフォームを活用した「Yanico DX」を実施することが決定しました。全町民の手にYanicoが渡ったことで、この電子商品券は町内で広く通じるようになります。多くの職員も利用者としてこのシステムを体験しました。「このプラットフォームで自分の部署のやりたいことができるのではないか」という発想が庁内から生まれてくることを期待しています。
「白浜町は面白い取り組みをしている」
――DXの推進に対して、庁内や住民から反発の声はありますか。

鳴尾さん:全住民を対象としたデジタル施策であるため、デジタル利用が困難な方などを中心にお声をいただきます。そういった方への対応には時間も労力も必要なため事例として多く感じてしまいがちですが、大多数の方にデジタル商品券をスムーズに使ってもらっています。スマートフォンの普及率からみても、声なき声が実際の利用者の大半を占めていると感じています。
これから地域はますます人口が減っていくことになります。するとどうしても税収が減り、職員数も減る。しかし行政が担うべきサービスの範囲は変わらない。そのギャップをDXで埋めていくことは、もはや選択ではなく必然です。取り残される人が出ないように丁寧にフォローしながら、全体の進化を止めないことが大切だと思います。
――他の自治体からの関心や反応はいかがですか。
鳴尾さん:近隣自治体で同様の取り組みをしているところは、現時点ではありません。地元紙の記者との情報交換の中でも「白浜町は面白い取り組みをしている」とよく言っていただきます。
先進的と評価していただけることはありがたいですが、むしろ、他の自治体の職員の方々にとって何かしらの勇気やヒントになってくれれば、という気持ちの方が大きいですね。だからこそ、発信し続けることに意味があると思っています。
――今後の展開として、庁内への横展開についてはどのようにお考えですか。
鳴尾さん:現状、e街プラットフォームを活用しているのは企画政策係だけです。他部署のタクシー助成券やバスの優待証への展開も検討しましたが、対象者に高齢者が多いため実施には至っていません。
今後、国の経済対策などで商品券事業の機会が再び生まれた際には、今回構築した基盤を活用すれば迅速かつ低コストで事業実施できるため、登録済みの方にはより高いプレミアム率を設定するなど、継続参加へのインセンティブも設計できるのではと考えています。
e街プラットフォームを導入した本来の目標は、この仕組みを町全体の電子インフラとして機能させることです。各部署が個別にシステムを調達するのではなく、共通の基盤の上にさまざまな施策を乗せていく。コストの削減、住民の利便性向上、デジタルデバイドの解消を一体的に進められる状態が理想です。まず部署を越えた横展開を実現させることが、次の課題だと感じています。
――最後に、ギフティへの今後の期待についてお聞かせください。
鳴尾さん:最も信頼できたのは、疑問があればすぐに動いてくれるという姿勢です。できないことは「できない」と正直に伝えてくれる。それでいて、こちらが本気で取り組んでいるときには、先方も本気で向き合ってくれる。4年間、その関係性は変わっていません。
期待という点では、他の自治体の好事例を積極的に共有してもらい、白浜モデルをさらに改良するためのヒントを提供してもらえたらなと思います。正解は最初からあるわけではなく、走りながら考え、走りながら修正していく。その繰り返しでここまで来ました。ギフティとも、同じ方向を向きながら走り続けていきたいと思っています。
※本文は2026年3月時点の情報です。
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